エッセイ・デザイナーのつぶやき


アートディレクターとデザイナー、DTPの違いって。

アートディレクションとは?グラフィックデザイナーとは?

 アートディレクターとグラフィックデザイナー、エディトリアルデザイナーや、DTPの違いを誤解されている方が多く、はっきりさせておかねばならないと思った事が何度かある。

 DTP (Desktop publishing、デスクトップパブリッシング)とは、日本語で卓上出版という意味である。
 「DTPオペレーター」というのは本来は「コンピューターで紙面の割り付け」をする者の事で、デザインが出来る人の事を表すのではない。

 これはコンピューターが台頭するまでは「版下」とよばれた部署である。

 グラフィックデザイナーの「グラフィック」の意味とは、「図形」「形」の意味。
元々は平面印刷の総称から始まった、情報やメッセージを伝達する手段として制作された媒体の事であり、日本ではアドバタイジング主として「広告デザイン」「商業デザイン」と総称される。

 エディトリアルデザインとは私が認識する限り元々が日本の造語ではないかと思っている。日本では「編集物のデザイン」と捉えられていて「雑誌」「パンフレット」などページネーション(台割)を必要とする媒体をこう呼ぶ。

 グラフィックデザイナー、エディトリアルデザイナーは「アート系職業種別」の名前だが、DTPとは「コンピューターで印刷媒体を制作する業界の名前」。
 そもそも「DTPデザイナー」という名前、この呼称が業界の誤解を彷彿させた。
 
 版下業界が躍進の意味を込めたのだろう。「版下」部署として元々別れていたモノを、「デザインも出来る部署」に変更し、コンピューターで作成する「DTP」というハードの外殻を表す言葉に「デザイナー」をくっつけてしまった会社が多い。 
 Web業界もしかり。Webデザイナーという言葉を付けるなら、まずデザインが出来ないといけないということを、デザイン専門学校も度外視している場合が大変に多く、デザインが出来ないWebデザイナーを作り出している重要なミスに全く気付いていないことに失望する事も何度もあった。

 これは「デザイン」が出来るかどうかでなく、「そもそもモノ作りは全てデザインなのだ」という大きな視点から、その部署に入ればデザイナーというアート性を度外視した業界行動。DTP業界ならば、本来「DTPオペレーター」と認識せねばならないのだが、このようなキッチリとした職業意識を持たせて社員教育をされている会社はまだまだ少ない。

 この視点はその当時のデザイナー世代をきっぱりと分けてしまった過渡期を作った。
 「コンピューターが使える者」「コンピューターが使えない者」。単なるパソコンの業務だけで、「パソコンが使えないなら必要が無い」と、デザインの業界から削り取られてしまった方々もいる。
 「デザインが出来るかどうかではない」この無茶な視点のおかげで、私の師匠の年代の有能なデザイナーさんが、何人この業界を辞められたか知れない。
 これは日本のグラフィック業界を支えた、名工とも言える財産だった人達である。

 なので一般人ならともかく、「DTPと名前が付けばデザイン、コンピューターでレイアウトすればデザイン」だと思われているデザイン学校出の方々がメールされてこられた時は、本当に悲しい想いがした事があった。

 この影響が大きいと思うのだが、デザイナーという言葉はグラフィックやエディトリアル業界では、「DTP業界」と呼ばれ出してからはかなり希薄になってしまった。

 これは先頃のクライアントの発注を見ていてもわかる。デザイナーといえば「DTPのように組版」という感じが無きにしもあらず。「安ければ良し」の感覚が身に付いてしまっていて、デザイン的なクオリティはそこには無い。
 いまや100万人デザイナーと言われる時代に、私達同業者達は、一般へ見識を深めて貰う益々の努力が望まれる。もっとデザインの価値を高める仕事への切磋琢磨が必要なのであろう。

 オペレーターとデザイナー。
 オペレーターは組版する人なので、デザインレイアウトが出来るとは限らない。職種も全く違うのだが、現在はこの二つの業種内容が一般に理解されていないだけに、これからグラフィックデザイナーの価値はどんどん下がっていくだろう。

 グラフィックデザインとは、基本は手と頭でする事であって、サムネールというデザイン画(ラフスケッチ)を描けないといけない。これはイラストの事では無いのだが、専門的になるのでここは割愛する。
 グラフィックデザイナーはアートディレクターから、デザイン上のコンセプトを貰い、ツール作成の指示を受ける事が多く、アートディレクターの下部職種にあたる。

 アートディレクションとは、本来はデザインコンセプトを決定し、デザイナーを含めたクリエーター達の取り纏めもする事である。

 例えばデザイナー、カメラマン、スタイリスト、モデルなどのクリエーターのスタッフセレクトもするし「撮影シュチュエーションやロケ場所、デザイン要素はこうしたい」と皆に統一見解を出す役目。映画のいうところの監督と思って頂ければ分かり易い。
 様々なコーディネイトやトラフィックもするので、かなり忙しくデザインを別の人に頼む事もある。(私の場合、デザインを他の人に任せた事は無い)

 アートディレクターは出来上がる絵を、打ち合わせの時点で想定出来なければいけないので「デザイン修行をされた方」しか難しい。
 これが大事なのだが、要は「頭の中の絵が人に伝えられる」、描けなければいけない。

 先頃は「印刷物を扱っていれば、アートディレクター」「絵が描けなくてもグラフィックデザイナーになれる」と唱っている学校やサイトもあって、体裁を求める日本の社会にはぴったりの言葉なのかも知れないが、絵を描くというのは誌面の構成力を上げたり、バランス感覚を養うには必須の技能である。お客様に伝えられるだけの絵の技量も無く「私はアートディレクターです」と言われてはお客様も迷惑だし、そもそもデザイナーの修行もせずにアートディレクターとは本当は有り得ない。
 こんな事では、そのうちに印刷会社に入った時点で「誰でもアートディレクター」になってしまう。

 ケースによるが、ディレクターという名前だけにディレクション作業が主であり、トラフィック業務は多く幅広い。クライントとスタッフとの架け橋やトラブル処理などと、行程を繊細に管理するような事務的事項も大変に多い。
 特に著名なアートディレクターの方達の中には、デザインコンセプトだけ決めて制作は別会社に頼み、仕上がりのチェックだけを行われる場合もある。
 建築や店舗設営や、テーマパーク、ファッションデザインなど業界業種は違えど、デザインコンセプトを決める職はアートディレクションというので、その業種それぞれにこの「アートディレクター」という肩書きを持っている方々はいると思う。

 わたしも名刺には「アートディレクター」の名前を持っている。
 私の場合は、雑誌のアートディレクションがメインだったのが、現在デジタルソリューションも含め、多角的に動く事が多くなって来た。
 
 アートディレクションの役割を、雑誌のディレクションで説明すると、「表紙のコーディネイトから、中面に至るまでの台割から全てを見る」ということになる。

 スタッフのセレクト時には「カメラはあの人に頼みましょう」というコーディネイトに関わる事は当然口を出すし、雑誌の企画会議には参画していた。料理ブックをやった際には、レシピセレクトなどにも関わっている。

 本来雑誌の場合は一般的に編集者がディレクションするので、ビジュアル重視の雑誌以外では、編集者がスタッフセレクトする事が殆ど。グラフィックデザインの場合もクライアントの意向がかなり影響するのでディレクションしにくい面もある。

 私の場合はディレクション職でも喰っている人というイメージが、お客さんにもすでにあるので、新店舗展開をする際のグラフィックデザインや新雑誌の立ち上げなどがあると「アートディレクションから入る」という形態が多い。

 ディレクション職をするには、会社に任されたりお客様からの指名などが無いと自己主張をしても難しいかもしれない。
 仮に出来たとして、有能なスタッフを集めるのには経験や付き合いが必要だし、時に自分が想定したデザインコンセプトの事でスタッフとの摩擦も起こる。

 質問を頂いたこともあるのだが、スグにアートディレクターに成れるような事は書けない。環境とチャンスも大きい事ですが、尚かつご自身が喋りにたけている事。お客様の意向を踏んだ上で、自分のデザインの想定を崩さない信念持たなければ、アートディレクション職につくのは難しいと私は思う。

 昔は「業種は何ですか?」と聞かれると「グラフィックデザイナー」と答えていた。
 それは「アートディレクションとは、一から十まで自分のデザイン意志で動かせていなければならない」という若気の至りがあった為。
 要は「あの仕事は、会社の言う事を聞いて作っているから」という捻くれた心構えであった為なのだが、本来の「ディレクション」とは、仕事をマネージメントする事。

 よく「会社がこうだからああだから〜出来ない」ということを聞くが、これは愚痴。到達出来ない壁を自らが打ち立てて、尚会社のせいにするのは間違いだと思う。会社のルールを自分の力にすべきで、会社はそういうモノだと思うべき。
 その中のシステムを利用してこそプロと言えるし、本当のディレクションをしていると言える。アートディレクションを目指す方には、こういった壁も乗り越えて、ご自分の目指す所へ辿り着いて欲しいと願います。


 お客さんが「アートディレクターとグラフィックデザイナーの違い」の業種の違いを理解されているハズは無く、時には「そんな事で食っている人がいるんだ」と驚かれる事もある。今は本当の「アートディレクション」の意味を、お客様や学生さん方にも伝えなければならないと思っているし、それが使命だとも思う。
 
 いまデザイン業界全体に「付加価値=いらない」という事が一歩手前まできているように思うから、携わる人達はクオリティを保つ重要性を考え、お客様に伝える努力を常にしなければいけないのだろうと思う。




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2005.6.26 Sasquatch(2010年11月改編)  小森じゅん子 


デジタルハリウッド大阪校  アートディレクター講座 2005〜2008年講師

グラフィックデザイン事務所サスカッチは、2003年に大阪市淀川区に設立した小森じゅん子のデザイン事務所です。グラフィックデザイン、雑誌デザインの制作、ロゴやリーフレット、ポスターなどの印刷媒体のトータルブランディングや、アートディレクションを含め幅広くデザインしています

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